樹海さんがメモるスレ  投稿
185投稿者:樹海さん 05/18(月) 13:29
人生は夕方から楽しくなる:児童文学作家・松谷みよ子さん
(2014年08月22日/毎日新聞東京夕刊

 ◇書きたい気持ちと「語りの力」信じて

 夏の終わり、サルスベリが咲いていた。「あれはシダレウメ、それからモモ、ヤマザクラ、紫のモクレン……」。自宅の応接間から見える庭木の名前を教えてくれる。歌うみたいに。

 自身の子育てを下敷きにつづった代表作「ちいさいモモちゃん」(講談社)が今年、刊行50年を迎えた。シリーズ全6冊の累計は約620万部。今も読者からファンレターが届く。

 シリーズ後半の作品を書いた東京都練馬区の自宅の応接間で「ここから庭の木をながめるのが一番好き」という松谷さん。傍らで事務所のスタッフや、「モモちゃん」のモデルでもある長女、瀬川たくみさん(56)が「本当はね、ずうっと本ばかり読んでいるの。雑誌なんかは、気になるページをどんどん折りながら。行きたい場所や景色が載っているページとかをね」と教えてくれた。

 「小学生のころ、父に連れられてよく歌舞伎を見に行きました」。父親は松谷さんが小学生の時、交通事故で亡くなった。日本労農党創立に参加した社会運動家で衆議院議員、反骨の弁護士でもあった。「政治家よりも芸術家になれ」が口癖だったという。「歌舞伎好きの母のために毎月1回、2階の正面最前列の席を取ってくれました。末っ子だった私はいつも父の膝の上で歌舞伎を見ていたんです」。今も一番の趣味は歌舞伎を見に行くことだ。

 観劇も良いけれど、「モモちゃんシリーズ」の大ファンとしては、彼女の新たな童話が読みたい。「もう書かないの」と尋ねかけて、気付いた。お菓子の包みを開く右手が不自由そうだ。「今年に入ってグーパーグーパーができなくなったの」。右手の血管が詰まっていたという。肩を落とす私を励ますように、松谷さん、ふふふと笑ってこう付け足した。

 「でもね、物語を書きたいって気持ちはなくならないのよ。今だって全然書けないわけじゃないし。リハビリもしているし」。隣で瀬川さんが小さく拍手した。

 松谷さんには行きたい場所がある。それは宮城県の女川だ。

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